山田尚子監督作品「モダンラブ・東京(エピソード7)」を観ました

山田尚子の最新作品。とりあえずエピソード1~6をすっとばして7を観ました。互いに独立している作品だと思うので問題ないと思う。

 

★★★☆☆

 

■脚本について

2人の出会いと別れ、その後再び出会うところまでを描く作品です。

展開は結構素朴なものに感じました。主人公である桜井が抱えている「何物にもなれない」って悩みも、恋人の梶谷との出会い方、別れ方もわりとよくありそうなものです。そういう陳腐さがむしろ視聴者の共感を呼ぶのかもしれないな、と思います。

 

とはいえど…、別れのパートで梶谷が桜井から離れるきっかけが、「桜井の笑ってごまかす癖」だったのは正直納得いかないところでした。桜井に「笑ってごまかす癖」があることは、梶谷自身が指摘していたものです。さらに言えば、その際に梶谷が「将来何になりたいか」を尋ね、桜井は「笑ってごまかし」つつも、そのあとにハッキリと夢を述べたのでした。桜井がそういう癖をする時に、本心を隠していることは、梶谷、お前には分かるやろ!(というか梶谷にこそ分かってほしいはずでしょう…)

…と、作劇上、別れのきっかけとして「照れ隠しから始まる誤解」を用いるのは、陳腐なだけでなく、今回の場合は整合性に欠けるように見えて、納得いかないのでした。

 

そのあと、社会人になった桜井は、SNSを通して「絵を描くこと」に関するある種の自己実現を果たしています。「何物にもなれない」という不満を乗り越える手段として、現代的なものだと思います。まだSNSが存在しなかった(あるいはその認知度の低かった)であろう桜井の中高時代には想像できなかったような形で、自己実現を図ることができるんだ、という、社会変化とそれに対する適応。SNS過渡期の世代ならではの、素朴な驚きが表現されていると感じました。そして、そのSNSを通して、偶然の再会を果たすことができる(それを夢見ることもできる)という展開もまた、過渡期特有の驚きと期待を含んでいるような、そんな気がしました。例えば20年後とかに、生まれた時からSNSが存在していた世代にとっては、こういう筋立てはどう映るのかな、ということがふと気になりました。

 

あ。あと、文化祭の日、梶谷くんが桜井を迎えに来た時に花束を持ってきたことに僕はグッときました。そしてその時に「写真に撮りたい!」と言った桜井、その写真を大事にとっておいた桜井、その出来事をきちんと記憶していた梶谷、全部よかったです。花束を含め、プレゼントってなかなかする機会がないですけど、それがこういうふうに良い思い出として長く残るなら、何気ない日であっても積極的にしていきたいよな。

 

■映像について

山田尚子さんの監督作品は『たまこまーけっと』とその劇場版『たまこラブストーリー』、『リズと青い鳥』、あと『平家物語』を観たことがあるのですが、その中でも、特に『リズ青』では被写界深度の浅い、ぼかしなどの撮影処理をかけた画面が印象的でした。

今作ではぼかしに加えて色収差とかブラーみたいなのが入ってたと思います。ただこういう効果って、背景素材が精密だったリズ青の場合は相乗効果があったかもしれないですが、今作の場合はさほどの感動を得られなかったです。

 

梶谷の目線から慌てて逃げ隠れようと桜井が脚(というか四肢)をバタバタさせるあたりが好きです。脚バタバタといえば山田尚子、みたいな感じありますよね。